2026.10.31
体外受精の技術は年々進歩しています。
しかし、妊娠が成立することと、無事に出産を迎えることは同じではありません。
「採卵しても卵子が少ない」
「受精卵がなかなか育たない」
「移植しても妊娠に至らない」
このようなお悩みを抱えながら、不妊治療に取り組んでいる方もいらっしゃると思います。
2026年9月、日本産科婦人科学会から2024年の体外受精・顕微授精などの生殖補助医療(ART)に関する治療成績が発表されました。
今回は、このデータから日本の不妊治療の現状を確認するとともに、妊娠・出産に向けて漢方ではどのような体づくりを大切にしているのかをお話しします。
2024年の体外受精の治療成績
こんにちは。小諸市の勉強堂薬局です。
2024年、日本で行われた体外受精や顕微授精などの総治療周期数は550,265周期でした。
主な治療成績は次のとおりです。
| 項目 | 2024年 |
|---|---|
| 総治療周期数 | 550,265周期 |
| 全凍結周期数 | 171,601周期 |
| 全凍結を除いた治療周期数 | 378,664周期 |
| 移植周期数 | 282,374周期 |
| 妊娠周期数 | 116,974周期 |
| 流産数 | 29,300周期 |
| 生産周期数 | 83,491周期 |
妊娠率と生産率を見てみると、次のようになります。
-
移植あたりの妊娠率:41.4%
-
総治療周期あたりの妊娠率:21.3%
-
全凍結周期を除いた妊娠率:30.9%
-
全凍結周期を除いた生産率:22.0%
-
妊娠周期あたりの流産率:25.0%
ここで知っていただきたいのは、どの治療周期を基準にするかによって、妊娠率が大きく変わるということです。
実際に胚移植を行った周期では約4割で妊娠が成立していますが、治療全体で見ると妊娠率は21.3%となります。
ただし、総治療周期には採卵周期や凍結融解胚移植周期などが含まれています。また、同じ方が複数回治療を受ける場合もあるため、これらの数字が患者さん一人ひとりの妊娠確率を示しているわけではありません。
治療成績を理解する際には、数字の大きさだけでなく、何を基準にした割合なのかを見ることが大切です。
移植あたりの妊娠率は上昇しています
2022年から2024年までの治療成績を比較すると、移植あたりの妊娠率は次のように推移しています。
| 年 | 移植あたりの妊娠率 |
|---|---|
| 2022年 | 36.1% |
| 2023年 | 39.0% |
| 2024年 | 41.4% |
この3年間で5.3ポイント上昇しています。
年齢別に見ても、35~39歳では39.4%から43.6%へ、40歳以上では22.4%から26.7%へと上昇しています。
医療技術や治療方法の変化など、さまざまな要因が考えられますが、移植あたりの妊娠成績が向上していることは明るい材料といえるでしょう。
また、2024年の生殖補助医療による出生児数は86,473人となり、過去最多となりました。
体外受精や顕微授精は、現在の日本において、多くの方が赤ちゃんを迎えるための大切な治療方法になっています。
妊娠から出産までには、まだ課題があります
一方で、妊娠が成立した後の経過にも目を向ける必要があります。
2024年の流産率は25.0%でした。
妊娠が確認された周期の約4分の1で、流産が報告されていることになります。
特に流産率は、年齢とともに上昇する傾向があります。
| 年齢 | 流産率 |
|---|---|
| 35歳 | 21.8% |
| 38歳 | 27.0% |
| 40歳 | 34.5% |
| 42歳 | 42.6% |
| 44歳 | 51.0% |
年齢が高くなるにつれて流産率が上昇する背景には、卵子の染色体異常が増えることなどが関係しています。
ただし、流産にはさまざまな要因があり、すべてが年齢や卵子の状態だけで決まるわけではありません。
体外受精の成績を考える際には、妊娠判定が陽性になることだけでなく、その後の経過や出産に至る割合も大切な指標になります。
採卵から胚移植までの過程も大切です
もう一つ注目したいのが、採卵から胚移植までの過程です。
2024年の総治療周期数は約55万周期でしたが、実際に胚移植が行われたのは約28万周期でした。
もちろん、採卵した胚をすべて凍結し、後日移植する治療方法もあります。また、採卵周期と胚移植周期は必ずしも同じ年に行われるわけではありません。
そのため、この2つの数字の差を、そのまま採卵後に移植できなかった割合として考えることはできません。
しかし、実際の治療では、採卵しても卵子が得られない、受精しない、胚が十分に発育しないなど、移植まで進めない場合もあります。
また、胚移植ができても、必ず妊娠や出産に至るわけではありません。
体外受精では、採卵、受精、胚の発育、移植、妊娠、出産という一つひとつの過程が重要になります。
そして、こうした治療に取り組む中で、病院での治療に加えて、ご自身の体調や生活習慣を見直したいと考える方もいらっしゃいます。
漢方では妊娠に向けた体の土台づくりを大切にしています
勉強堂薬局では、妊娠を目指す方の体づくりを考える際に、検査結果や治療経過だけでなく、日々の体調にも目を向けています。
例えば、冷えや疲れ、睡眠、胃腸の状態、生理周期、経血の状態などです。
また、体外受精に取り組むご夫婦の場合には、女性だけでなく男性の体調についてもお聞きしています。
漢方では、同じ不妊というお悩みでも、体質や不調の現れ方は一人ひとり異なると考えます。
そのため、すべての方に同じ漢方薬を用いるのではなく、今の体の状態に合わせて、必要な働きを補い、気血の巡りを整えることを大切にしています。
生殖に関わる「腎」の働き
漢方では「腎は精を蔵し、生殖を主る」と考えます。
腎は、成長や発育、生殖、加齢などに関わる働きを担うとされ、妊活漢方では特に大切にされています。
腎の働きが弱まった状態を「腎虚(じんきょ)」と呼び、体質に合わせて腎を補う「補腎(ほじん)」という考え方を取り入れます。
補腎は女性だけでなく、男性の妊活でも大切にしている考え方です。
男性の場合には、疲れやすさ、冷え、睡眠、胃腸の状態などを確認しながら、体質に合わせた体づくりを考えます。
勉強堂薬局でも、漢方を服用しながら体調を整えていく中で、精液検査の精子運動率に改善がみられた方を経験しています。
精子の状態はさまざまな要因によって変動するため、検査結果や治療経過も確認しながら、その方に合った体づくりを考えていきます。
血を満たし、巡らせること
女性の妊活では、漢方でいう「血(けつ)」の状態にも目を向けます。
漢方では、血は体を養い、潤す働きを持つものと考えます。
血が不足している状態を「血虚(けっきょ)」、血の巡りが滞っている状態を「瘀血(おけつ)」と呼びます。
例えば、経血量が少なく、疲れやすさや肌の乾燥が気になる方では血虚の傾向を考えることがあります。
一方、生理痛や経血の塊、肩こりなどがある方では瘀血の傾向を考えることがあります。
勉強堂薬局では、こうした体質の違いを確認しながら、血を補う「補血(ほけつ)」と、巡りを整える「活血(かっけつ)」を大切にしています。
ご夫婦で体づくりに取り組み、妊娠・出産された相談例
ここで、勉強堂薬局で実際にご相談いただいたご夫婦の経過をご紹介します。
35歳・Sさんご夫婦のケース
Sさんは妊娠を希望されてから5年が経過していました。
これまでにタイミング療法や人工授精を6回受けられましたが、妊娠には至らず、体外受精を検討されていました。
奥様には手足の冷え、生理痛、経血の塊、ストレスによる不調などがみられました。
また、ご主人の精液検査では精子数の減少が確認されていました。
そこで、ご夫婦それぞれの体調や体質を確認し、漢方による体づくりを始められました。
奥様には、漢方でいう血の不足や巡りの状態に目を向け、ご主人には生殖に関わる腎の働きや日々の体調を考えながら、漢方を選んでいきました。
漢方の服用を続ける中で、約1年6か月後には奥様の基礎体温に二相性がみられるようになりました。
その後も体調に合わせて漢方を調整し、約1年11か月後に体外受精へ進まれました。
採卵では5個の卵子が得られ、そのうち2個の胚を凍結保存することができました。
さらに約4か月間、体調を整えながら胚移植に向けた準備を続け、移植後に妊娠が確認されました。
妊娠後も体調に合わせた漢方相談を継続され、無事に出産を迎えられました。
長い治療期間の中で、ご夫婦が一緒に体づくりに取り組まれた相談例です。
妊娠・出産に至るまでの経過には、体外受精による治療をはじめ、さまざまな要因が関わっています。
勉強堂薬局では、こうした治療に取り組むご夫婦が、日々の体調を整えるための漢方相談を大切にしています。
体外受精に向けて、ご夫婦でできる体づくり
不妊治療というと、どうしても女性の検査や治療に目が向きやすくなります。
しかし、妊娠には男性側の精子の状態も関係しており、ご夫婦で体調を整えていくことも大切です。
漢方では、男性も女性も、生殖に関わる「腎」の働きを大切にします。
また、女性では血の不足や巡り、男性では疲れやすさや冷えなど、それぞれの体質や不調に合わせて体づくりを考えていきます。
毎日の食事や睡眠、適度な運動、休息を大切にすることも、健康な体の土台になります。
妊活中は、検査結果や治療の予定が気になり、気持ちが落ち着かないこともあると思います。
そんなときこそ、今のご自身の体調に目を向け、無理なく続けられることから取り組んでみてはいかがでしょうか。
勉強堂薬局では、妊娠を目指すご夫婦の体質や体調に合わせて、漢方による体づくりをご提案しています。
どうぞお気軽にご相談ください。
執筆者
平尾利枝
薬剤師
日本不妊カウンセリング学会 会員
勉強堂薬局で妊活・不妊相談を担当。薬剤師としての知識を生かし、病院での検査や治療状況も確認しながら、漢方の視点からお一人おひとりの体調や体質に合わせた妊活の体づくりをサポートしています。
参考:日本産科婦人科学会「2024年生殖補助医療(ART)データ」


